私の視界一杯に、少し黄味がかった、くすんだ白の背景がどこまでも広がっていて、時折錯視の様に揺れていました。
水なのか煙なのか。

そうしているうちに白の中から、焦げ茶色の墨らしきモノが細く染み出して来ました。
目に捉えられない複雑なアラベスク文様が悪戯な意思を持って走り廻っているようでした。

唐突に。
焦げ茶色のアラベスク文様は、色はそのままに、鮮明で綺麗な桔梗の花の形になりました。
焦げ茶の桔梗は沢山沢山生まれて来て、
白の上を無音で埋め尽くしていきます。
清冽な花畑。

こんなにも美しい桔梗達を、私は見た事がない。

祈るような気持ちで目を凝らしていると
桔梗の花畑が一気にブラックアウトして、
身の切れる程の感覚を持って、誰かの横顔が私の目の前に写り込みました。

青ざめた横顔。
細く鋭い鼻梁、
紺色に近い薄くて長いまつげ、
そうして眼は深く沈む黒一色。

男なのか女なのか。
悲しいのか怒っているのか。

何も分からない表情を目の当たりにして
「ああ、もう絶望的だ」
と思った瞬間目が覚めました。

家のベッドの上で私は金縛りになっていて、それはなかなか解けず目は既に開いているはずなのに、焦げ茶の墨が泳いでいるのが見えていました。

久しぶりの怖い夢。
一夜明けて思い起こすと、とてもとても美しくて、悲しい夢。

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