骨折日記6〜不思議な話〜

朗読のなみさんとの、リハの日。
私もヒギーも気合い十分でスタジオに向かう。この頃には、松葉杖一本でどうにか歩けるようになっていた。
しかしながら、依然として亀の歩み。
スタジオ近くから、なみさんと共に歩く。
ノタノタ。
なみさんも、合わせてノタノタ。
言葉なぞ無くとも、ノタノタに合わせてくれるなみさんの優しさが胸に沁みる。

彼女の声に惚れている私(初めて彼女の朗読を聞いた時には、お宝発見!と家で跳ね回っていた。こういう事が、私の人生の中の宝物なのである)。
今回の公演で、彼女が飛び切り素敵に語れるように。彼女の良さがお客様に伝わるように。という部分を目標にして来た。
朗読の方との演奏は、僅かながら過去に三味線で経験がある。
色々試行錯誤。
そういう事を考えていると、その時だけは、ヒギーの痛みは何処かへ飛んで行くのである。

リハのスタジオにて練習開始。
はー良い声だ…なみさんの声…もうヒギー治ったかも。
よし、ここでヒギーの出番だぞ!ソフトペダル行くぜ!
『ムキュ』
包帯をキツめに巻いて添え木で固定しているので、痛くない。これはイケる。
『ムキュ…』
ヒギーもなかなか聞き分けが良い。
はー…ホント良い声だわ…
『ムキュキュ』
ね、ヒギー、これもうピアノとか要らないんじゃない?なみさんの独演会でも良いんじゃないか?
『ソレハ違ウ』
はい。

一しきりやり終えた後、なみさんが心配そうな顔で聞いてくる。
「ねえ涼子さん左足大丈夫?」
どうやら、痛みはさほどなのだが、『左足でペダルを踏む』という行為に、身体が無意識に反応して、踏み込む時に、(い…行くぜ…踏みますよ、ホントに踏みますよ、マジで行くぜ…ヒギッ!!)的な、恐怖をかろうじて押し殺した汚い顔になっていた様子。まあそれは顔だけなので、本番に汚い顔にならなければ、それでよし。気をつけよう。

本番までには、まだ少し日にちがある。今日大丈夫だったから、どうにかいけそうだ。
少しホッとした私であった。

リハ終わりで病院へ向かい、超音波を当ててもらう。血流が良くなり、治りが早くなるらしい。イケメン青レンジャー先生曰く、
「うん。ヒビは、ズレてないから順調に治ってますね」
ヒビがズレると厄介らしい。ヒギーは美しく華麗に折れてくれているのだ。
流石ヒギー。褒めてあげよう。
『♪』

今回、なみさんとの演目、「狐の嫁入り」の脚本を書いた。筋書きだけを、言い伝えの部分から貰って、後は頭の中で物語を膨らませて作った、オリジナルの作品。
その中で、
主人公が、わざと左足の草鞋の鼻緒を切って、足をくじいたフリをして、お稲荷さんの祠の前で狐を待ち受ける場面が出てくる。

「ねえ、なみさん、偶然なんだけどさ、あの狐の嫁入りの、草鞋の所あるじゃん」
「あ、それ私も実は、思ってた。涼子さん左足の、鼻緒が切れた時に折れる所を折った、て聞いた時、ちょっと何か、びっくりして」
「私もなんだよ。自分で書いといて、実際私が本当に折るか、っていうね。でも嫌な感じしないんだよね、不思議」
「涼子さんが良い方に思ってるなら良かった、きっとね、上手く行くよ」
「うん。行くよね」
ヒギー。お前もそう思うよね。
『オモウ』
素直なヒギー。

世の中不思議な事があるものだ。

つづく





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