骨折日記5〜絶好調ヒギー〜

さて。骨折りから5.6日経っても、ヒギーはとっても元気。つまり、絶好調に痛いのである。
ピアノを練習しなくてはいけない。
「ひがっ!ひぎっ!」
と呻きながら、やうやう登りたるピアノの椅子。紫立ちたるヒギーの、図々しくたなびきたる…
そして練習を開始するも、しばらくすると
『血ガ落チテクル』
「ぬぬ…?」
そっとヒギーを覗き込むと、何だか太って来ている。いや、浮腫んで来ている。
「ええ!ヒギーお前、足を下ろしてこんな短時間でこんなにムクムクになるの?ただ下ろしてるだけで使ってないのに。信じられない」
『ムクムク。ナル』
何だか、ヒギーがズキズキと脈打って来た。危険。練習中止。

困ったぞ。
今度の、なみさんの朗読と私のピアノでの公演の際は、ソフトペダル多用必須。(ソフトペダルは左足で踏むのであります)
因みに、なみさんにションボリしながら電話で足折れを報告した際には
「ねえ、涼子さん。一つだけ約束して。いくら跳んだっていいよ。でも下だけは、確認して跳んで」
との、お言葉を賜わった。最高に気が楽になるお言葉だった。

ヒギー。お前がどうなろうと、私はソフトペダルを踏むぞ。踏みまくるぞ。覚悟は良いな。
『…ベツニ』
ツレないヒギーである。

気分転換に、ヒギーと共にお風呂に入る。ヒギーの所はそっと洗う。(病院の先生が、お風呂の時に外せるタイプの、添え木的ギブスを作ってくれていた)本当はゴシゴシしたいのだが勇気がない。石鹸の泡でフンワリくるむ感じで洗う。お姫様の眠る羽布団より軽いタッチ。
紫色のヒギーは気持ち良さそうである。
世話の焼ける奴だ。ふう。でもさっぱりした。
右足を上手く使ってお風呂の外へ。

…バスタオルを持って来るのを、忘れた。
ガッデム………
この時、洗面所のフェイスタオルで取り敢えず身体を拭く、という選択肢は思い浮かばなかった。
行くしかない。しかし…
『ククク。マヌケ』
「……!女涼子、行ったるわい!」
心の中でクラウチングスタートを切り、全裸右足ケンケン走法にて、寝室のバスタオルの場所を目指す。
あられもない姿、身体から髪から滴る水滴(この歳になるとお肌は水を弾かない)、鬼の形相で自己ベストを目指すケンケン女、紫ヒギーのけたたましい哄笑。
地獄だ。ここは、地獄。
バスタオルに辿り着いた時には、鬼の棍棒で100殴りされた後のようなダメージ。

「ヒギー。これで本当にソフトペダルが踏める?ソフトと言いながら、今の我らには、ハードモードペダルなのでは…」
『…知ラネ』
「…だよね。お前に言ってもね」

その後、ピアノ→ヒギーがムクムク→休む→ピアノ→ムクムク→休→ピ→ム→休
と余りにも効率の悪い練習を繰り返しつつ、
いや、ピアノ弾くとなると、四肢の中なら、やはり左足が折れて不幸中の幸いと言わざるを得ないな。
とぼんやり思った。
「やっぱりヒギーで良かったよ」
お返事は無かったが、ヒギーは少し嬉しそうな顔をしていた。

つづく






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