骨折日記4〜コンビニへの挑戦〜

折れた左足の甲、名前は「ヒギー」。
私とヒギーは炭酸水を求め、家を出て、セブンイレブンを目指した。
その距離普通の足で歩けば2分。

ヒギーを宙に浮かせながら、右足と松葉杖二本で、突き進む。
たまにヒギーが地面と接触すると、痛みのあまり
「ひぎっ!」と叫んでしまう。
ギブスと包帯でクルクル巻きにされて居ながらも、痛みは健在。
ヒギーはある意味元気に生きているのだ。

しかし。
遠い。
セブンイレブンが、砂漠の向こうのセブンイレブンのように思える。
あそこに見えているセブンは、本当に実在するセブンなのか?
砂漠の蜃気楼ではなかろうか?
そう、全ては幻。
真夏の夜の夢。おっとついつい知的な涼子が出ちゃうな。→馬鹿
「どうだいヒギー。私もなかなか上手いこと言うよね!」
『…』
思春期ヒギーはひねくれている。
ていうか、私が全く上手くない、という話なのだが。

突然、吐き気を催した。
その場でストップ。
これは一体。
「ヒギー、何だか、吐き気がするんだよね。危険な感じ。今にも倒れそう」
『…ヒンケツ』
「!」

そうか。
昨日家の中で一日中、殆ど座っていた。移動も最小限。いきなり立ち上がり歩けば、確かに貧血になる可能性は大。
引き返すか否か。ヒギー。どうする…
『タンサン…』
了解です。

歯を食いしばり突き進む。折しも熱帯夜。
生温い風、身体中にへばり付く湿気。吐き気と、ワガママヒギー。神様仏様ヒギー様。
耐えがたきを耐え…られない。(思考回路崩壊)

力を振り絞り、セブンイレブン到着。店の冷房で正気を取り戻す。
炭酸水と…あと…冷凍たこ焼き買っとくか…
そんであれ、冷凍お好み焼きもやな。お好み焼き定食のおかずは、たこ焼きで決まりや。
おおきに。(やはり思考回路は、なんとなくおかしい)

炭酸水、冷凍たこ焼き、冷凍お好み焼き、という不思議な三種の神器の入ったビニール袋を左手にしっかり持ち、家路に着く。

遠い。砂漠の向こうの我が家。
吐き気再来。
ダメだ、立っていられない。
道路脇の、コンクリートの出っ張りにヘタりこんだ。そのまま動けない。
「ヒギーの嘘つき!イケるか?て聞いたらイケるって言ったよね!?…全くイケてないではないか」
『…』
「ヒギー!」
『…zzz』
狸寝入りヒギー。

コツコツ。
闇に響く音の方向に目をやると、音的に品の良い高さのヒールを履いた、シルエット的にOL風のお嬢さんが、向こうから歩いて来る。

お嬢さん…
あなたの行く手に待ち受けている、危険な生き物。
松葉杖を投げ出し、左足にヒギーを飼い、前日お風呂に入っていない、身体中汗まみれ、ベッタベタの天然ポマードでイカしたヘアセット(無造作ヘア)を施した、青ざめた顔の女。
下北沢で300円で買ったロングスカートを履いている女。
…どうか、この生き物を無視して通り過ぎて下さい。
むしろ、
お嬢さん…お逃げなさいっ♪ (♪森のクマさん)

お嬢さんは、こちらに向かって来た。闇に紛れた私に気付いたらしい。
コツコツコ…ツコツコツコツコツ
一瞬の休符を入れて、その後インテンポで去って行くお嬢さん。
そう、お嬢さん、それで良いのです。

『ハヤク。タコヤキガ、溶ケル』
「やかましいっ!溶けへんのじゃ!」
最後の力を振り絞り、家へ向かう。
エレベーターで自分の階に辿り着いた瞬間、またヘタりこむ。
もう、そのまま踊り場に足を投げたしてヘタりこむ。

「ヒギー…辛いよ。これは辛すぎる」
『タコヤキ』
「……」
呑気なヒギー。
そうだな、ヒギー。早く帰ってたこ焼き、食べようね。炭酸水も、飲むぞ。

私だけの身体じゃない。私がここで息絶えてしまえば、ヒギーも共倒れだ。
気力で、玄関の扉前まで這うように進み、鍵をあけ、中に転がりこむ。
意識は、混濁している。

やったぞヒギー。勝ったぞ…
『タコヤキ』

それから、炭酸水とタコヤキをヒギーと共に食し、アイスノンをヒギーに当てがい、手負いの獣の如く布団の上で唸りながら眠りにつく私であった。

つづく













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