骨折日記2〜忍者の骨折〜

慣れない松葉杖で、亀の歩みで、家路に着く為電車に乗り込む。この日ばかりは、優先席をお借りする。何となくずっと、ワザと辛そうな顔を作る私。役者である。

我が人生に於いて、2度目の骨折。

1度目は、幼稚園の時であった。
当時の私の将来の夢は「忍者」。
忍者には人並み外れた身体能力が必要。
それ故、日々修行に明け暮れていた。
修行内容の一部をご紹介すると、

・当時の自分の背丈の、倍位の長さのトイレットペーパーをパンツに折り込み、尻尾状態にして、狭い家の中を走り回る。(ペーパーが床につかないように、走り続ける。忍者は兎に角早く走れなくちゃダメ)

・家の前の空き地に生える雑草は成長が早い。日々その場所に通い、雑草を飛び越える。(忍者にはお屋敷の塀を一気に飛び越えられるレベルの跳躍力が必要不可欠)
まあ、雑草は結局、膝丈位になった所で何者かによって綺麗に刈り取られてしまった。

・風呂場にストローを持ち込み、お湯の張られた風呂釜の中で仰向けになり、ストローを口に咥え水遁の術の実践。これは、溺れかけたので、中止した。

等、弟の「かずくん」を巻き込み、割りかしストイックな修行に励んでいたのである。

ある晩、夕食前のリビングのソファの上で、私と弟は忍者ミーティングを行っていた。
私「かずくんは、甲賀忍者になってね。姉ちゃんは伊賀忍者の方に入るけん」
弟「ええ!伊賀と甲賀は、仲悪いんよね?やだ。ぼくも姉ちゃんと一緒の伊賀忍者になりたい」
私「かずくん…もし今、伊賀と甲賀の仲が悪かっても、姉ちゃんとかずくんで、仲良しにしたら良いんよ!全部の忍者で仲良くなったら、忍者はもっと良くなるんよ!」
弟「姉ちゃん……」
姉に向けられる、弟の尊敬の眼差し。

良い気になった私は、いつも以上に張り切り、胸の前で忍者の印を結び、ソファの上で立ち上がる。
「じゃ、修行ね!今日はここから、足音を立てずに下に飛び降りるよ!」
「うん!!じゃなかった、にん!!」
「そう、かずくん、偉い!にん!だよ!」
「にん!」
「にん!姉ちゃんから行くけんね!にん!!!」
私は印をしっかり結んだまま、華麗なるジャンプをかました。

右肘がリビングの床と接触し、ありえない方向に曲がった。
その瞬間、ボキャ!という、生きてきて聞いたことのない音を、聞いた。

「うわああああん姉ちゃん!!」
弟の声が遠くで聞こえる。
夕食を作っていた母親がやって来て、右肘に触れる。
「んぎゃああああ」
我が右肘は、くノ一の「くの字」に曲がったまま、1ミリも動かせなくなっていた。
即救急車で搬送、そのまま入院。


…懐かしくもほろ苦い想い出…
そして、私という人間は、幼稚園の頃から何一つ変わっていないのだな…
優先座席で、ギブスに包まれた左足を眺めながら、アルカイックスマイルを浮かべる私。もう、色々悟った。

因みにこの私の右肘骨折の一年後、弟のかずくんは、押入れ上段から
「にん!」
と飛び降り、私と同じ右肘を折った。
そして同じ様に救急車で運ばれた。嘘の様な本当の話。

つづく











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